岡山理科大学獣医学部
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2023年8月16日から18日にかけて,タイ王国南部ハートヤイ郡のプリンス・オブ・ソンクラー大学(Prince of Songkla University:PSU)を訪問し,養殖場の視察,シンポジウムでの講演ならびに共同研究推進会議に出席しましたのでご報告いたします。
PSUはタイ南部の最初の大学として1967年に設立された歴史ある大学で,5つのキャンパスに,39の学部,カレッジ,研究所,4つの病院,40以上の研究センターと多数の研究施設があります。今回はメインキャンパスであるハートヤイキャンパスの天然資源学部を訪問しました。
現地入りした8月16日は,国際部顧問のChutima Tantikitti先生,水圏科学・イノベーション管理部長のNaraid Suanyuk先生の研究室を訪問しました。Chutima 先生は栄養学がご専門で,魚類の成長や生理機能に与える飼料添加物の影響などに関する研究に取り組まれています。Naraid先生の専門は魚病学で,特に連鎖球菌症に関する研究について多くの成果を挙げられています。飼料の品質が免疫機能に大きく影響することは言うまでもありませんが,お二人は共同でも多くの成果を挙げられております。
天然資源学部にはコンクリート水槽やポリカーボネート水槽が多数設置されていて,魚類や甲殻類などの飼育試験が行われていました。飼育施設は非常に広く,多くの試験区を組めるため,企業から依頼された研究なども実施されていました。
タイでも日本と同様で,魚病学を専門とする研究者は水産系大学出身者が多いようですが,養殖産業の規模が日本よりも遥かに大きいため,獣医学部でも魚病分野の研究に携わられている先生が多いようです。PSUのハートヤイキャンパスにも獣医学部がありますが,ここにも魚病関連の仕事をされている先生がおられるそうです。魚病学の講義は,お互いに協力しながら実施しているとのことでした。
翌8月17日は,PSUのChutima先生,Naraid先生,またラジャマンガラ工科大学スリビジャヤ校(RUTS)のKittichon U-taynapun先生らとともにナコーンシータマラートのトゲノコギリガザミの養殖場を視察しました。
養殖場風景
RUTSのKittichon先生は魚病学が専門でありながらも,水産養殖の生産性の向上に関する技術開発にも取り組まれており,この養殖場において光合成細菌(PSB:Photosynthetic Bacteria)による環境改善の実証試験を行っていました。
このガザミ養殖場では,以前はバナメイエビが養殖されていましたが,病気の発生により生産量が急減したため,養殖対象種を転換したとのことでした。ところが,当初はこのトゲノコギリガザミの生産が安定せず,飼育環境の改善が課題だったそうです。そこで,RUTSとの共同研究を開始し,PSBを自家培養し,飼育池に散布することで,環境の改善を図ったそうです。その結果,硫化水素やアンモニアといった生物に有害な物質を酸化あるいは還元することで水質が安定し,生産量を4倍ほど向上させることに成功したとのことでした。PSBの培養方法については,特殊な栄養塩類を使用するとコストがかかってしまいますので,一般的に購入可能な食材や調味料を駆使した方法で行われていました。PSBに関しては,実は昔から環境改善にしばしば用いられてきましたが,小規模な養殖場ではどうしてもコストの問題が生じてきます。この実証試験のように,PSBを低コストで自家培養し,環境改善剤として有効に活用することができれば,養殖業者にとって大きなメリットとなります。Kittichon先生らはこの自家培養されたPSBの中から環境改善効果の高い株を選抜し,それらの特性を評価しているとのことでした。
訪問最終日の8月18日は,PSUにおいて開催された“The 2nd Conference on Agricultural Innovation and Natural Resources 2023”に出席しました。この会議では「持続可能な食糧システムと資源確保のための水圏科学」をテーマに,養殖産業の発展に向けた様々な取り組みに関する発表がありました。日本からは私の他に,福山大学副学長の伊丹利明先生ならびに宮崎大学工学教育研究部Thi Thi Zin先生が出席されました。
PSU天然資源学部のChaiyawan学部長による開会挨拶に続いて3題の基調講演があり,タイ水産局のAtra Chaimongkol博士は,持続可能な食料安全保障のための世界の養殖について,福山大学伊丹先生は日本のエビ養殖の現状と課題について,PSUのEknarin Rodcharoen先生はソンクラー湖における海洋汚染物質についてご講演されました。
基調講演に続いて7題の招待講演があり,このセッション内で日本国内の魚病診断に関する話題を提供させて頂きました。その後,一般講演があり,非常に活発な議論が交わされていました。
全ての講演が終了した後,PSUのChutima先生の進行の下,3カ国6大学の教員らで今後の大学間交流や共同研究の推進について計画検討会を行いました。
2024年度も同 学術会議を継続する運びとなり,また各大学間での今後の学生交流や共同研究に関して協議がなされました。私自身としては,インドから参加されたヴェロール工科大学(VIT)のRaja Sudhakaran先生と将来的な共同研究計画について協議いたしました。VITには獣医学部はありませんが,生物情報工学分野との連携は相互の研究の発展に大きく寄与することが期待されます。また,大学間国際交流協定(MOU)の締結についても積極的なお話を頂きました。また,RUTSのKittichon先生からは研究生の受入れが可能であると伺っています。PSUやRUTSには獣医学部も設置されていますので,MOUの締結も視野に入れて今後協議していきたいと考えています。
報告者
獣医学部獣医学科
魚病学講座 准教授 米加田徹
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