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フィリピン大学獣医学部訪問報告

 2019年の6月20日から6月28日までの期間、フィリピン大学ロスバニョス校獣医学部を訪問してきました。フィリピン大学ロスバニョス校(University of the Philippines Los Banos)(UPLB)は、フィリピン本島(ルソン島)のマニラ近郊に位置するラグーナ州に位置し、ラグーナ湖に接するロスバニョスという小さな町にキャンパスを構えています。ロスバニョス校には、獣医学部(College of Veterinary Medicine)( CVM)の他にも10の学部等の組織が存在し、13000人以上の学生が学ぶキャンパスです。フィリピン大学獣医学部は、1960年まではフィリピンでは唯一の獣医校であり、フィリピン国内では最も高いレベルの獣医校として知られています(Collegeなので学部と訳すのは、正確ではないかもしれませんが、本報告では便宜的に獣医学部と訳します)。CVMは、フィリピンの獣医師国家試験では、最も高い合格率を長年に渡り残しており、高い教育水準を維持しています。

(写真1) 左から順に宇根教授、トレス学部長、 マサンガイ名誉教授、渡辺

(写真2) コウモリ種同定を行うMNHスタッフ

 

 

 

 岡山理科大獣医学部は、2018年に新設された新しい学部でありますが、渡辺を含めた獣医学部の現教員とUPLBの間には10年を越える共同研究の実績があります。はじまりは、岡山理科大学獣医学部の学部長の吉川泰弘先生が、東京大学在籍時代に開始した、「翼手目(コウモリ)由来感染症の研究」です。近年、新興感染症(または人獣共通感染症)を引き起こす病原体の自然宿主として、コウモリが注目されています。そこで東京大学農学部獣医学科のチーム(吉川チーム)を中心にフィリピンでのコウモリ疫学調査を2007年頃から開始しました。それ以降、様々なメンバーが入れ替わりで参加しながら、現在まで調査を継続しています(岡山理科大獣医学部現教員の中では、吉川学部長、渡辺の他に宇根教授・藤井助教などが過去に調査に参加してきました)。また共同研究のカウンターパートとして、サポートを継続して行ってくれているのが、CVM病理学講座のマサンガイ教授です(写真1)。現在では退職されて名誉教授です。UPLBでは、名誉教授の称号を得ることは大変に難しく、数人程しかこれまでに称号を得た先生はいないと聞きました。名誉教授になると、CVMでは研究を終生継続できるということで、我々共同研究チームとしても大変に喜ばしいニュースです。マサンガイ教授の他にも、UPLBの自然史博物館(Museum of Natural History, MNH)のスタッフとも共同研究を続けています(写真2)。MNHのスタッフは、コウモリの生態学を研究しており、彼らの野外調査に関する知識・経験は、コウモリの疫学的研究にはなくてはならないものです。こうした共同研究体制で、現在までに多くの学術的論文を研究成果として実際に発表することができました。参加メンバーの一部が岡山理科大に着任したのを契機に、共同研究で培った実績や信頼を基にして岡山理科大獣医学部とCVMの間に学部間交流協定を結ぶことができないかと考えました。高い教育・研究水準を誇るCVMと協定を結ぶことにより、継続している研究課題にとどまらず、より幅広い研究分野にまで共同研究を発展させたいと考えました。さらに教育交流により岡山理科大の教育の質の向上にもつなげたいと考えます。

(写真3) 調査で捕獲した食果コウモリ

 そこでフィリピンでのコウモリ疫学調査に合わせて(写真2,写真3)、CVMの学部長室を訪問して研究・教育交流に関する学部間協定締結の可能性について話し合いを行いました(岡山理科大学からは渡辺、宇根教授が参加しました)(写真1)。既述の共同研究の経緯の説明、岡山理科大獣医学部の紹介をCVM学部長のEduardo Torres 博士(写真1)に行いました。その結果、協定の締結に向けて賛同を得ることができました。しかしながらトレス学部長は、学部長の任期を満了したタイミングであり、次期学部長が決定するまでの期間に仕事を続けている状態にありました。そのため任期後の協定締結に関して具体的に話を進める権限を持たないということを聞きました。そこで次期学部長に話を引き継いでいただくことをお願いしました(次期学部長は決定していないものの、トレス学部長やマサンガイ教授の教え子にあたるはずなので、しっかりと話を引き継ぐと約束していただきました)。

 協定締結の方向性について賛同をいただけたので、具体的な協定案を進める上で必要な準備についても、意見交換を行いました。CVMでは既に日本の獣医大学等と交流協定を締結しているため、それらの協定内容の詳細について聞き取りを行いました。トレス学部長からは、こうした他の機関との協定内容が、今後実際に協定を締結する上で参考になるのではないかと意見をいただきました。そこで今後は、岡山理科大側で協定の原案を詰めて、次期CVM学部長と具体的な交渉を行うという手順を相互で確認しました。

(写真4) CVM動物病院

(写真5) CVM内の骨格標本展示

 

 

 

 

 コウモリ疫学調査を通して、CVMの研究施設を利用させていただいていますが、通常使用しない施設や動物病院についても今回の訪問では見学をさせていただきました(写真4、5)。研究施設、病院ともに、10年前に比較すると設備や機器が整備されてきていることを感じます。施設の見学・使用を通して、得られた重要な情報を2点追記します。
<1.大学院の設置>
 CVMでは以前は修士課程までしか、過程が存在しませんでしたが近年、博士課程が設置されました。博士課程の設置は、CVM内での自発的な研究活動に必要な環境が整備されたことを意味します。
<2.日本人留学生の卒業、と日本での国家試験合格>
 近年、CVMでは日本からも、留学生を受け入れています。日本人留学生は日本で獣医活動を実施するためには、UPLBを卒業後に日本で国家試験に合格する必要があります。UPLBに在籍していた日本人留学生は実際に日本の獣医国家試験に合格しました。このことはCVMの教育水準が、日本の獣医大学の教育レベルに匹敵している一つの証拠であり、CVMのスタッフはその点を大変誇らしく考えていると聞きました。

 今回の訪問で意見交換した内容を基に、今後、CVMとの研究・交流協定を締結することを目指していきたいと考えています。一つの共同研究を通して重ねてきた信頼関係をベースにして、より広範で発展的な相互交流を行っていけると良いと考えています。UPLBの訪問の機会を与えてくださいました、国際獣医教育研究センターの関係者の皆さまに改めて深謝いたします。

報告者        
獣医学部 獣医学科
微生物講座 准教授
渡辺俊平

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